2008.10.16更新

修士論文

等温系における化学-機械エネルギー変換:
非平衡開放系の特徴を生かした実空間モデルの構築

平成15年1月30日

北畑 裕之

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 生命現象を物理的に考えるとき,散逸系(非平衡開放系)としてとらえる必要がある.等温条件下でATPの化学エネルギーから運動を作り出している分子機械について考えてみよう.分子機械のサイズを考えると,熱揺らぎが非常に大きく,生み出す仕事とほぼ同じスケールである.つまり,生物の運動機関は散逸系の特徴を利用した巧妙なメカニズムを用いているはずである.しかし,その動作原理は未だ解明されていない.そこで,現実空間での実験モデルを構築することで,そのメカニズムの解明を目指す.

 Belousov-Zhabotinsky (BZ)反応は,非平衡開放系,特に反応拡散系の実験モデルとして広く研究されている.これまでに,BZ反応において化学振動反応に同期した界面張力振動が見出されている.本研究では,この振動現象を利用し,現実空間上で等温条件下での化学-機械エネルギー変換を行う系を構築することを試みた.

 まず,化学反応に伴う界面張力の変化が引き起こす対流現象についての実験を行った.BZ反応溶液と油の界面を作り,化学波を発生させたところ,化学波の波面へと引き込むような対流が見られた.また,BZ反応の化学波による界面張力の影響を考慮したNavier-Stokes方程式を用いて数値計算を行い,実験とほぼ一致することを確認した.

 次に,この対流現象を用いて,BZ反応の液滴が化学振動反応と同期して空間的に振動する系を構築した.油にBZ反応溶液の液滴を浮かべたところ,液滴内の化学反応と同期して,液滴が自発的に運動する現象を見出した.2流体の粘性が異なるために,界面張力により対流が駆動される際,2相の間で運動量の交換が行われなければならず,それによって液滴全体が運動していると考えられる.

 この自発的に振動するBZ反応液滴の系は,等温系で化学-機械エネルギー変換する現実空間でのモデル系である.この現象は,化学反応の強い非線形性と空間等方性の破れ,スケールを小さくした点が本質的に効いているであろう.

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